漢字が並んで、難しそうな病名ですが、アメリカでは1500万人(国民の約20人に1人)の患者がいる、ありふれた病気です。殆どの場合先天的に発病し原因は不明。男性よりも女性の方が良く見られます。
僧帽弁とは心臓にある四つの弁の内の一つで、この弁は左心房(心臓を縦、横四つ分けた内の左上)と左心室(左下)の間にあり、血液の流れを調整する役目があります。
正常な心臓では血液は左心房(上)から左心室(下)へ流れます。心臓が休んでいる時間に、僧房弁が左心室方向に開き、血液が上から下へ流れます。そして脈が打つ時、弁は閉まり、血液は左心室(下)から全身へと送り出されます。僧房弁逸脱症を持っている方はこの弁が正しく閉まらず、左心房方向(逆方向)へ弁が開いてしまいます。軽度の場合は特に問題はないのですが、ひどくなると、血液が逆流してしまう(下から上)事があります。この状態を僧房弁逆流、または僧房弁閉鎖不全症と言います。
自覚症状が無い事が多く、定期健診で発見される事が多いようです。ただし、場合によっては頻脈、不整脈(脈が飛ぶように感じる)、時々起こる数秒間の胸痛、息苦しさ、めまい、急に起こる不安感のような症状が出ることもあります。診断はまず医師が聴診器で心音を聞き、特徴のあるクリック音が聞こえるか調べます(必ずしもあるとは限りとは限りません)。心電図はこの病気を表さないので役に立ちません。また、症状がひどく、血液の逆流を伴う場合は聴診器にて心雑音が聞こえる事があります。最終的診断は心エコー(超音波)にて確定されます。この結果によって治療が必要かどうか、また何か合併症を伴っていないかなどが分かります。
合併症がない場合、この病気に関しては何も治療の必要はいりません。また放置していても、寿命に影響はありません。但し年間に50人に一人ぐらいの割り合いで合併症が起こります。合併症は心房細動などの不整脈、心内膜症、うっ血性心不全などで、これらの病気は治療を行わないと予後が悪くなります。病気が悪化し、血液の逆流がひどくなると、運動制限の必要や、また最悪の場合は外科的治療が必要となることもあります(これはごく一部の人のみです)。
それでは患者の立場からこの病気に対してどのように注意すれば良いのでしょうか?
まず僧房弁逸脱症を指摘されたら一度心エコーを受けた方が良いでしょう、軽いもので、症状も無く、心雑音を指摘されないようでしたら年に一度診察を受け、症状に変化が無いか注意するだけで十分です。つまり普通の生活をすれば良いという事です。もし心エコーで逆流を伴うと言われた場合、また心雑音を指摘された場合は手術、歯の治療などをする前に抗生物質を服用する必要があります。これは心内膜症という危険な病気(弁に菌が感染する病気)を予防するためのものですから、事前に医師に伝えて処方してもらって下さい。その他に、胸痛、動悸などの症状がある場合は、交感神経B受容体遮断剤内服薬で症状をコントロールする事も可能です。残念ながらこの薬で病気そのものは治りませんが不快感は和らぎます。
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